裁判例集
交通事故の損害賠償の裁判例: 最判S33-8-5
交通事故の裁判例
不法行為により身体を害された被害者の母の慰藉料請求が認容された。
交通事故の裁判例判旨
所論は、民法七一一条の法意は生命を害された者の近親者以外の者に慰藉料の請求を認めないことにあると主張し、身体傷害を受けたにとどまる被上告人Kの母被上告人Hの慰藉料請求を認容した原判決の違法をいうのである。
しかし、原審の認定するところによれば、被上告人Kは、上告人の本件不法行為により顔面に傷害を受けた結果、判示のような外傷後遺症の症状となり果ては医療によつて除去しえない著明な瘢痕を遺すにいたり、ために同女の容貌は著しい影響を受け、他面その母親である被上告人Hは、夫を戦争で失い、爾来自らの内職のみによつて右K外一児を養育しているのであり、右不法行為により精神上多大の苦痛を受けたというのである。ところで、民法七〇九条、七一〇条の各規定と対比してみると、所論民法七一一条が生命を害された者の近親者の慰藉料請求につき明文をもつて規定しているとの一事をもつて、直ちに生命侵害以外の場合はいかなる事情があつてもその近親者の慰藉料請求権がすべて否定されていると解しなければならないものではなく、むしろ、前記のような原審認定の事実関係によれば、被上告人Hはその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められるのであつて、かかる民法七一一条所定の場合に類する本件においては、同被上告人は、同法七〇九条、七一〇条に基いて、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。されば、結局において右と趣旨を同じうする原審の判断は正当であり、所論は採用することができない。