裁判例集

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交通事故の損害賠償の裁判例: 名古屋高裁H16-12-16

交通事故の裁判例

被告人が薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥った地点(時期)についての原判決の認定には事実の誤認があるが、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないと判断した。

交通事故の裁判例判旨

 所論は,原判示第1の事実について,被告人が「正常な運転が困難な状態」に陥った上で被告人車両を走行させたことはないのに,これを認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,という。
 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,被告人は,本件事故の約1時間半前ころと約1時間前ころの2回にわたり,普通乗用自動車内において,過剰に服用したり,他の薬と併用したりすれば,眠気を催したり,意識障害や運動能力の低下等のおそれのある数種類の精神神経用剤等(以下,単に「薬剤」ということがある。)を,通常の用量をかなり超える量を,しかもほとんど同時に服用した(この点について,所論は,被告人が服用した薬剤の種類と量は正確には認定できず,過剰に摂取したとはいえないというが,被告人が服用する様子を目撃した者らの供述によれば,被告人が,複数の種類の薬剤をかなりの量服用したことは優に認められ,過剰摂取は明らかである。)。その後,被告人は,同車を運転して堀田インターから名古屋高速都心環状線(以下,「名古屋高速」という。)に入り,丸の内出口辺りの7.5キロポスト付近を走行中,時速約80キロメートルで走行中の車両ハリアー(以下,「ハリアー」という。)の後部に自車を接触させる物損事故を起こした。被告人は,そのまま制限最高速度を約40キロメートル超える時速約100キロメートルで走行を続け,約2.6キロメートル先の10.1キロポスト付近で,右側防護壁に衝突した後,自車を逸走させて,本件事故を起こした。そして,被告人は,捜査段階において,車を運転中,運転開始前に服用した薬剤の影響で,「正座をした後,少し触れただけでもジーンとくるような足の強く痺れた時と同じ感覚の痺れが,頭を含めた全体に出てきました。そして,体がフワフワして,頭がボーッとなって,気が抜けたような感じにもなりました。その上,震えるほどではありませんが,寒気も感じました。特に名古屋高速に入った後で,私は,これらの症状を強く感じていました。」と述べているが(原審乙14,同乙16も同趣旨),被告人の供述は,具体的で,運転開始前における薬剤の摂取状況やその薬理作用とよく整合している上,ハリアーに接触する事故を経て本件事故に至った経緯や事故態様等と矛盾するところはなく,不自然・不合理な点も全く認められず,十分信用することができる。
 このような,本件事故に至るまでの客観的事実及び被告人の捜査段階における供述を総合すると,被告人が,名古屋高速に入った後,本件事故に至るまでの間に,運転前に服用した薬剤の影響により,前方注視や,道路・交通状況に応じたハンドル,ブレーキ等の操作を意図したとおりに行ったりすることが困難な心身の状態,すなわち,正常な運転が困難な状態に陥ったことはもとより,被告人がその旨認識していたことを優に認定することができる(所論は,本件事故に至る直前,約90度のカーブを事故を起こすことなく高速で走行していること等を挙げて,被告人が前方注視及び運転操作が困難な状態になっていたと認定するには合理的な疑いが残るという。しかしながら,被告人は,前方注視及び運転操作が全くできなくなっていたわけではないから,そのようなカーブを事故を起こすことなく高速で走行したこと等をもって,「正常な運転が困難な状態」に陥っていたことに合理的な疑いを生じさせるものとはいえない。)。
 ところで,被告人が服用した薬剤の影響を認識した地点,すなわち被告人が,正常な運転が困難な状態に陥っており,かつ,そのことを認識した地点について,所論は,その地点は丸の内出口辺りの車線増加地点付近(名古屋高速7.5キロポスト付近)であるのに,名古屋高速5.0キロポスト付近(新洲崎ジャンクション付近)であるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があると主張する。
 しかし,所論が指摘するところを考慮しつつ検討しても,原判決が,(事実認定の補足説明)の項の第2で詳細に認定・説示するところは,正当として是認することができ,被告人が山へ行って心を落ち着かせようと思い,三重県方面の山に向かおうとして,新洲崎ジャンクションを通り過ごしてしまった地点,すなわち前記5.0キロポスト付近であると認定した原判決には,所論のような事実誤認はない。
 なお,原判決は,(犯罪事実)第1において,被告人が,「5.0キロポスト付近道路において,・・・前方注視及び運転操作が困難な状態になることを予測したのに同車の運転を続け,・・・その結果まもなく薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り,・・・」と認定・判示している。このような原判決の(犯罪事実)第1の判示に加えて,(事実認定の補足説明)の項の第3の2において,「被告人が薬剤の影響を認識したのは,ハリアーとの接触事故を起こした7.5キロポスト付近より相当距離手前の地点であると推認される。」旨説示している点等にかんがみると,原判決は,被告人が前記5.0キロポスト付近を通過後まもない地点で正常な運転が困難な状態になったと認定したものと解さざるを得ない。そうすると,被告人が薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥った地点(時期)についての原判決の認定には事実の誤認があるが,この誤認は,被告人の行為の構成要件的評価に差異をもたらすものでないことはもとより,誤認の内容及び程度にかんがみて,犯情等の評価にも特に影響するとも考えられないから,原判決の事実誤認は,判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。

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