裁判例集

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交通事故の損害賠償の裁判例:神戸地裁H17-6-9

交通事故の裁判例

好意同乗による過失相殺により被害者の全損害の40パーセントを控除した。

交通事故の裁判例判旨

(1)証拠によれば、本件事故状況等は、以下のとおりである。
〔1〕O(以下、「O」という。)、H(以下、「H」という。)、T(以下、「T」という。)、被告及びIの五名は、本件事故当日の午後九時過ぎに三田市内のレストラン「サイゼリヤ」に集合し、共に食事をした後、Iが被告の運転する被告車の助手席に、TがOの運転するO車の助手席に同乗し、HはH車を運転し、三台の車で神戸市北区上津台の公園に向けて出発した(甲二一、二五)。
 上記五名はいずれも当時大学生であった。I、被告、Tの三名は共に近畿大学に通学していた。Iは、Tとは、高校時代からの友人であり、もっとも親しく付き合っていた。大学四年生になってからは、Iは、被告と互いの家を行き来するなどして付き合うようになった。OとHは、Tを通じてIらと付き合うようになった(甲二五、三九)。被告とOは、日常において、車のことを共通の話題にしており、二人とも車の改造や走りについて興味があり、車屋ではそのような話をよくしていた(甲二二、三七)。
 O車は、総排気量二・四九リットルの日産スカイラインGTS―Tであり、マフラー、エアクリーナー、足まわり、バケットシートを高速走行用に改造変更した車両である(甲二〇、二二)。
 被告車は、総排気量二・九六リットル、ツインターボの日産フェアレディZであり、車内のオーディオにブラックライトがつけられたり、ナンバープレートにプラスティックカバーがつけられたりしているものの、特に改造は加えられていない。しかし、Oの認識では、直線走行速度は、O車よりも被告車の方が少し速い。被告は、被告車を運転して、阪神高速や中国自動車道、近畿自動車道等を走行したことがあり、最高時速としては一四〇キロメートルで走行した経験があった(甲二二、三七)。
 H車は、三菱ギャランFTOである(甲二五)。
〔2〕上記五名は、午後一〇時二〇分ころ、H車、被告車、O車の順で、サイゼリヤから上津台の公園に向けて出発した(甲二五)。
 三台の車は国道一七六号線を南進し、スーパーボウル三田前を右折して県道西脇三田線を西進し、長尾東交差点を左折して市道北神中央線を南進し、長尾交番前を右折して市道長尾線を西進し、事故現場に向かった(甲二六)。
 この間、長尾東交差点を左折して間もなく、被告車がH車を追い越した。長尾交番前右折時は、したがって、被告車、H車、O車の順であったが、ほとんど三台の車が同時に右折した(甲二五)。同右折直後、O車がH車及び被告車を一気に追い越した。同所から上津方面に抜ける市道長尾線は、片側二車線の舗装道路であるが、交通量が極端に少なく、当時被告車ら三台の車両の外は、同一方向に向けた進行車両は存在しない状態であったので、O車に一気に追い越された被告は気持ちが高ぶり、どんどん速度を上げた(甲三四)。O車に追い越されたH車は、これに追いつこうと時速一二〇キロメートルまでスピードを上げたが、二台からは離される一方であった(甲二五)。O車は時速約一〇〇キロメートル以上で右側車線を、被告車はそれに続いて左側車線を、H車は被告車の後方を走っていたが、上津大橋付近に至って、被告車は、時速一〇〇キロメートル以上はでているO車を、左側車線から一気に追い抜いた(甲三四)。その後、被告は、さらに被告車を加速させ、被告車の速度は時速約一二〇ないし一三〇キロメートルに達し、
被告は、進行道路が右に湾曲していることに気付いたが、減速することなくさらに走行を続けた。すると、被告車は横滑りを始め、被告は被告車が左へ左へと吸い寄せられるように感じたので、ハンドルを切るとともにブレーキを力一杯踏んだが、被告車はコントロールを失い、左後部を道路左端の縁石に衝突させた後、歩道に乗り上げ、歩道を暴走して上津台の公園入口の花壇の石垣に衝突し、横転転覆して停止した(甲三六)。
〔3〕本件事故現場は右にカーブを描いているが、その旋回半径は第一車線のみを走行した場合は約一五五メートル、第二車線のみを走行した場合は約一六〇メートルである。そして、自動車運転者が運転操作を正常に行い、一定速度で本件事故現場を進行できる際の限界速度は、第一車線若しくは第二車線のみの走行の場合は時速一一〇ないし一二〇キロメートル程度、車線区分にこだわらない走行の場合は時速一二〇ないし一三〇キロメートル程度である(甲一五)。本件事故当時の被告車の推定速度は、時速一二〇ないし一三〇キロメートル程度であるが(甲一三)、これに、時速一二〇キロメートルまでスピードを上げたH車が、二台から離される一方であったとする甲二五の記載にかんがみると、その速度は、上記推定速度よりもさらに大きいと推認される。
〔4〕本件事故によって被告車は大破し、上下を逆にして停止した(甲一〇)。
 被告はシートベルトをしておらず、衝突のショックで車外に投げ出され、被告車後部直近の運転席側路上で救急隊員に発見された。Iは、シートベルトをしており、転覆した被告車の助手席で、シートベルトによる宙吊り状態で救急隊員に発見された。
 救急隊員は、油圧カッターで助手席側ドアの一部を切断し、シートベルトを大型はさみで切断してIを救出し、直ちに恒生病院に搬送したが、Iは、事故当日午後一一時二一分、外傷性ショックにより死亡した(甲七、一九)。
(2)被告らの運転は極めて危険なものであり、O車、H車の走行を含めていずれも暴走行為というのが相当である。本件事故現場は、時速六〇キロメートルの制限速度が設定されていたと認められるが、そのような道路を、時速一二〇ないし一三〇キロメートルを上回る速度で進行するなど、常軌を逸した所為といわざるを得ない。
 先に認定した事実によれば、Iは、そのような暴走車両に進んで同乗していたのであり、その危険は、いわば自らが招いた面があるものというべく、損害の算定においては、いわゆる好意同乗の理論に基づいて一定の減額を認めるのが相当である。
 これに対して、原告らは、〔1〕Iが、被告の運転が乱暴であるとか、暴走する癖があったということを知っていたという事実はない、〔2〕Iが被告の高速走行を煽るような行為をした事実はない、〔3〕被告は事故半年前に二一キロの制限速度超過違反をしたことがある、〔4〕被告のみが事故現場のカーブで減速しなかった、〔5〕Iはシートベルトをしていた等の事実を指摘して、損害の減額は不当であると主張している。
 先に認定した事実によれば、I及び被告を含む五名の者のうち、少なくとも被告とOは車を共通の趣味にする者らである。一体、その趣味であること自体は、健全な嗜好であって、なんら非難される筋合にないのは当然であるが、それが、車両の違法改造を伴い、公道における暴走行為を行うことを含むとなると、強い社会的非難を加えられることとなるのもまた当然である。ところで、Oは、現に改造車である被告車の所有者であり(ただし、これを違法改造とまで認めるべき証拠はない。)、時速一四〇キロメートルの走行を行ったことを被告の刑事被疑事件の調書において自認している。Oと被告は車屋では改造車のことを話題にしていた。一般に、車両の改造が、高速度走行を目的として行われるのは、公知の事実に分類されると考えられる。そして、Iは、近畿大学に進学して後、被告らとの友人つきあいを始めたと認められるが、Iが、Oや被告が持っていた改造車に対する興味、高速走行の経歴について知らなかったなどとは到底考えられない。
 本件において、上記高速度走行の目的は、単なる一般論に止まらない。本件事故当日、I及び被告を含む五名の者らは、サイゼリヤで食事を終えると、それぞれ三台の車に分乗して走行を開始し、長尾東交差点を左折して間もなく被告車がH車を追い越し、長尾交番前右折時は、ほとんど三台の車が同時に右折したことは既に見たとおりであり、これは暴走行為と評価することができる。すなわち、上記三台の車両は、本件事故現場に到達するはるか以前から、換言するとサイゼリヤを出発して間もなくから、暴走行為を開始したと認められる(刑事事件記録において、Oらは自らが「暴走族」あるいは「走り屋」でないことを繰り返し述べているが、Oらが「暴走族」でないとしても、本件事故当日のO、H、被告の走行を暴走行為と評価すべきことは明らかである。)。上記五名の目的地は神戸市北区上津台の公園であったが、甲二五によれば、同公園は建設されてあまり間がなく、Hは、同所について、「静かなところで、デート(彼女と)する時などいい所である」という程度の認識しか有していなかったと認められる。要するに,上津台の公園に向かったこれらの者が、同公園において行うべき特別の予定ないし具体的な目的を有していたことは関係証拠からはまったく窺えないのであって、このことに、これまでに認定した事実をあわせ考慮すると、上記五名が上津台の公園に向かった目的は、同公園において何ほどかのことをすることには存在せず、同公園に向かう公道上で、暴走行為をすることそれ自体にあったと推認することができる。甲二二には、Oと被告は、共に本件事故以前に五、六回は本件事故現場に「走りに来ている」との記載がある。これによれば、少なくとも被告とOが本件事故現場を暴走行為の場所と認識しているのは明らかであり、他の三名の認識も同様であったと考えられる。
(3)以上によれば、Iについて好意同乗減額を行うべきでないことの根拠として原告らが前項〔1〕ないし〔5〕において指摘する事実は、〔1〕の事実についてはそれを認めるべき証拠はなく、その余の事実については、仮にそのような事実があるとしても、そのことによって、Iについて好意同乗減額を行うべきでないとはいえないというべきである。 
 なお、甲五には、「(Iは)好意同乗者ではあるものの、被告人の無謀運転をけしかけるような言動はしていないのであって、被害者には何ら落ち度はないし、好意同乗者であるからといって、無謀運転により生命を奪われることを了解するはずなどない」との記載がある。確かに、「生命を奪われることを了解する」ことがないとはいえようが、暴走行為が身体ひいては生命の危険を生じさせかねないことは常識の部類に属するというべく、Iを含む五名が上津台の公園に向かった目的が暴走行為そのものにあったと推認される本件においては、Iが、自らの意思で、上記常識に属する危険を引受けたと認めるのが相当である。
(4)もっとも、事故による責任を引き受けるべきは、何よりもまず被告車の運転者である被告であることも明らかであり、Iが被告車に同乗した上記経緯を前提としても、被告の責任に重大なものがあるのは論をまたない。
 以上によれば、原告らが本訴において請求する損害については、好意同乗による過失相殺若しくはその類推によって、全損害の四割を控除するのが相当である。

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